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2018/03/26

奇岩城

概要(あらすじ)
レーモンドは何者かが自分の屋敷に侵入する物音を聞く。庭を男が逃げようとする姿があり、父親と召使が刺されて倒れていた。
召使は即死。
犯人の手がかりはまったく見当たらず、捜査は困難を極めた。犯人の目的は窃盗と見られるが、屋敷から何が盗まれたのかすら不明だった。

ところが、捜査に高校生の探偵イジドール・ボートレが加わり、捜査は一気に進展をはじめる。
彼は盗まれたものが何か、犯人はどこにいるのかまでを推理する。
彼によると殺人犯と窃盗犯は別の人物だとし、窃盗犯のほうはアルセーヌルパンだというのだ。

ルパンはきっと、まだ屋敷付近の廃墟に潜んでいる、傷を負って・・・。
イジドールとルパンの戦いのはじまりであった!

やがて事件は、マリーアントワネットやルイ14世の時代までさかのぼり、
歴史をくつがえす大きな謎へとつながっていく!!
アントワネットは、断頭台にのぼるまえ、あるフランスの秘密を、暗号に託していたのだった・・・。

読後の感想など(ネタバレ)
秀逸な暗号に、推理、冒険のつまった力作。特に最後の2ページは泣ける。

この話が南洋一郎氏のお気に入りだったからなのか、もしくは少年が主人公で推理が進んでいくからなのか、
南洋一郎氏訳の子供向けルパンではこの話が第一冊になっている。
そのため、ルパンといえば「奇岩城」だと思っている日本人も少なくない。

ノーカットの大人版を読んで見ると話は壮大でドラマティックです。
ルブランは純文学を志していたらしいですが、純文学で売れなかったにしても、その心情描写の力や、人間ドラマを描く力が、ルパンをほかの推理小説とは一線を画す作品にしているのは確かですね。
ただの謎解きではなく、そこにはリアルな人間の感情があり、ときに美しくときにどろどろした人間関係があります。

舞台化も当時は成功したようなのですが。ブロードウェイなどのロングラン作品がないのは残念ですね。(ブロードウェイがやれば劇団四季もやるでしょう)
魅力的なキャラクター、ドラマティックな展開、それに物語全体を引っ張る謎。どの話も絶対おもしろいのに。
ただルパンの変装をどう演出するか、作品によっては演出家が頭を痛めてしまうかもしれませんが^^;



さてさて、大人版全訳の奇岩城ですが・・・正直、前半の少年が主役の部分はあまりおもしろくないんですね、大人には。
子供から見れば同年代のスターが活躍する話の方がおもしろいかもしれないけれど大人目線だとどうしてもボートルレが生意気なガキにしか見えないからでしょう。ルブランの文章力に引っ張られてどんどん読めることは読めるのですが、ルパンがなかなか出てこなくてちょっといらいらします。
「ルパンは死んだのか(シリーズになっているのだから死んだわけがない!)」という、今となっては謎になっていない謎の部分もいまやいらない・・・。いや、ルパンの隠れ場所もおもしろかったのですが、もっと短く結論に達してもよいのかなと感じました。

アントワネットが出てきて話が壮大になってきて、あとルパンが登場すると一気に面白くなってくる。

アントワネットについては・・・。私は歴史は苦手ですが「ベルバラ」を読んでいれば知識としては十分です(笑)。
ルパンシリーズ全般的に、歴史が苦手な女性は「ベルバラ」を読んでから読んだほうが楽しめるかもしれませんね。

「フランス革命」もしょっちゅう登場しますし「首飾り事件」がモチーフになった作品もあります。
が、作中では歴史そのものの解説はしてくれませんので^^;

文字だけでこれらの壮大な歴史をイメージするのはなかなか困難ですから。

話は奇岩城にもどって。

誰がルパンか、というお決まりの謎の答えも意外だったし、とにかくラストはドラマティックで悲しいです。
ここに私があらすじを書いても泣けないので、やっぱりそこはルブランの才能ですね。
たった数ページなのにすごい文章の力です。

ルパンが何年もかけてとんでもない財産を築き、それを投げ打ってでも恋人に尽くそうとするのに、
ホームズによって彼女が殺害され、ルパンの夢は藻屑と消える。

(これ、実際にやったらホームズは国際指名手配されてしまうと思うのですが^^;)

好きな女性ができるたびに「泥棒はやめる」と決心するルパンですが、運命がそれを阻止していくのですね。

入手できる書籍
子供向け翻訳が多いのが特徴。※が全訳。
※■偕成社全集版 第4巻「奇岩城」
※■新潮文庫ルパン傑作集(III)「奇岩城」(一部改定あり)
※■創元推理文庫「奇巌城」(一部改定あり)
※■ハヤカワミステリ文庫「奇岩城」
■ポプラ社版第4巻「奇巌城」
■集英社文庫「怪盗ルパン 奇巌城」
■講談社青い鳥文庫「怪盗ルパン奇岩城」
※■岩波少年文庫「奇岩城」
※■偕成社文庫「奇岩城」
■講談社文庫「奇巌城」
■集英社・子どものための世界文学の森「ルパン城」
■角川つばさ文庫「奇岩城」
■ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集」
「奇巌城」
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